御曹司の溺愛から逃げられません
あ、私の服……。
ホテルのクロークに預けてきたままだったと思い出した。

「瑛太さん、昨日のホテルに荷物を置いてきてしまいました」

「ああ。じゃあ取りに行くか」

「でも……」

「大丈夫。ちょっと待ってろ」

彼はどこかに電話していたがすぐに戻ってきて、鼻歌を歌いながらドライヤーをかけてくれた。
私の部屋に来ていた時も甘やかされ、お風呂の後はよくドライヤーをかけてもらっていたなぁと懐かしくなった。

私は反論するが彼は聞いてくれず、また抱き上げられてソファに座らされた。
ここで脱がされたはずの服は知らないうちに片付けてくれたようでホッとした。
昨日の乱れた私たちの洋服は明るくなった今見たらとてもはずかしいはず。

少しするとカフェラテをアイスティを持ってきてくれた。
色違いのお揃いのグラスのようだ。
少し歪な形をしているがそこも味があり素敵だ。

「作家さんのグラスですか?」

「ああ。この前長野の出張で見つけたんだ。香澄にも、と思って二つ買ってきた」

そういえば会社にも趣味だと聞いたカップが置かれていたのを思い出した。

「会社にある美濃焼のカップも素敵ですよね。瑛太さんの趣味だと聞きました」

「あぁ、あれか。ちょっと待ってろ」

キッチンに戻り、棚の奥から箱を取り出してきた。

「これは君の分。いままであまりこういうものを買ったことがなかったが、地方を回るようになってから惹かれるようになったんだ。香澄と一緒にカフェラテ飲めたらいいな、と思ってさ。ほら、冬は香澄の部屋でよく飲んだだろう?」

「私の分?」

「そうだ。香澄と飲めたら、と思ってこれを買った。このグラスも暑くなって一緒に冷たいものを飲めたらいいなと思った。こんなこと聞いて引くか?」

「ううん。むしろ嬉しいです。出かけ先でも私のことを考えてくれる時間があったんだと思うだけでにやけちゃいます。ありがとう」

彼は頷くと私の頬に手が触れた。

「どこに行っても、香澄が喜びそうだな、とか、好きそうだなとか思ったりする。ふとした時に頭に思い浮かぶんだ」

バリトンボイスに甘みのかかった声は私の神経を揺さぶる。
目と目が合うと自然と引き寄せられた。
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