御曹司の溺愛から逃げられません
来客があり、午後はバタバタとしていたが珍しく定時に仕事を終えることができた。

「香澄、帰れるか?」

「え?」

瑛太さんに呼び止められ驚いた。
金曜から彼の家に泊まり、週末は家に帰れなかったので今日は帰るつもりだった。
彼は私の服や下着、ルームウェアなど色々買い揃えてしまい、私を家に帰してくれなかったのだ。

「今日は帰ります」

「そうか。なら送るよ」

彼と同じ車に乗っているのを見られるわけにはいかない。
今朝だって素早くエントランスを通り抜けたが、あれは誰だったんだろうとものすごい勢いで噂になっていた。
元々目立たない私にたどり着くことがなかったのが唯一の救い。

「結構です。電車で帰ります」

「香澄!」

私は有無を言わさず、お疲れ様ですとだけ言うと小走りで秘書室を出た。
振り切れたと思ったがエレベーターの前で彼に腕を掴まれた。

「嫌になったか?」

掴まれた腕をぐいっと引き寄せられると腕の中に閉じ込められた。

「瑛太さん!」

焦って腕から抜け出そうともがくが出てこれない。

「香澄を独占したくなるんだ。今こうして腕の中にいることをもっともっと実感したくなる。すまない」

いつもより自信のなさげな声が私の胸をキュッと締め付けてきた。

「瑛太さんといたくないわけじゃないの。でもここは会社だし、私は目立ちたくない。それに家も心配なんです」

「嫌いなんじゃないんだな?」

「もちろんです」

良かった、という声が聞こえてきて私は彼の腕から解放された。
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