スパダリの秘密〜私の恋人はどこか抜けている〜
 特別社内恋愛は禁止されていないが、有紗としては上司と付き合っていることで、仕事がやりづらくなることに加え、自分の評価に色を付けていると思われるのが嫌だった。それもあって、二人の関係を知るのは同期のゆかりだけだ。

「ご飯食べるだろ? もう遅いから、軽いものにしといたけど」
「うん。ありがとう」

 既にお風呂に入ったのか、重力に逆らえなくなった髪のせいで、オフィスにいる時とはまるで別人だ。しかしながら、有紗はこちらの慶汰のほうが好きだった。自分しか知らない姿だから。

 有紗が先に荷物を片づけていると、その背中を後ろから慶汰がふわりと抱きしめる。

「有紗、なんか不機嫌?」
「それは……」
「社長賞、俺が獲ったからか」

 わかっているなら聞かないほしい――そう思ったが、口には出さなかった。結局、自分の実力不足であり、慶汰に及ばないことはわかっているのだ。

「実は今回は役職者のモチベーション維持のためでもあったんだ。だから本来は対象から外れた俺が選ばれたってわけ」
「……そうなんだ」
「それに俺が仕事でパフォーマンス発揮できてるのは有紗のおかげだから。有紗がいなかったら獲れなかったよ」
「んっ……」

 慶汰は有紗の顎を掬いとり、振り向きざまに唇を合わせる。

 すぐに奥深くへと侵入した舌先で、満遍なく口腔を弄られ、慌てて慶汰の胸を押し返した。

「ご飯……! 遅くなっちゃう」
「昼間は触れられないから、有紗不足。もう少しだけ――」
「そうやってすぐ触らない!」

 油断も隙もなく、太腿を撫で始めた慶汰の手をぺちりと叩く。

「残念。じゃあお風呂上りにでも」
「えっ」
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