Better late than never〜失った恋だけど、もう一度あなたに恋してもいいですか?〜
「おはよう。待っていたよ」
「兄さんに確認したい書類があったんだけど、部屋に行ったら明智さんしかいなくて……」
「あぁ、そうだった。すっかり忘れていたよ」

 兄の言葉を聞いた芹香は、怪訝そうに目を細めた。どこか演技をしているように感じたのだ。

「明智さんがいてくれたから、芹香を呼びに行く手間が省けたから助かったよ」

 やはり父と兄が誠吾と関わっているのはまちがいなさそうだった。しかし未だに疑念が燻ったままの芹香は首を傾げる。するて父が手招きをしたので、そのまま父のそばへ近寄っていく。

「芹香、お前には黙っていたのだが、実はここ最近ずっと明智くんにちょっと仕事を手伝ってもらっていたんだ」

 芹香は頷いたが、自分だけ何も知らされていなかったのだと知って悔しくなる。自分が信用されていないと遠回しに言われた気がしたのだ。

 しかしそのことに気付いた父が、すかさず口を開く。

「違うよ、芹香。今回は内密に動かないといけない内容だったんだ。だからその事実に気付いた秀之と、セキュリティのプロである明智くんに調査をお願いしていただけなんだよ」
「そうだったの……」

 情報漏洩を少しでも防ぐために、きっと少人数で動いていたのだろう。だとしても、同じ会社で働く身内として教えて欲しかったという想いもあった。

「それでだね、芹香。お前に一つ頼みがあるんだ」
「……ずっと秘密にされていたのに、今更ですか?」
「あはは! そうつれないことを言わないでおくれ。実は今夜の創設記念パーティーに、明智くんのパートナーとして参加して欲しいんだ」

 芹香の顔から血の気がひいていく。眉間に皺を寄せ、唇をギュッと噛み締めた。

「……どうして私が?」
「言うなれば、明智くんに頼んだ仕事はまだ終わってないからだよ。今日は特に大切な日でね。しかし彼は業界人にも女性にもモテる。仕事どころではなくなる可能性もあるからね。そのお目付役を芹香にお願いしたいんだ」
「それは……兄さんじゃダメなの?」
「俺も挨拶とか忙しいんだよ」

 芹香の表情が暗くなったことは、この場にいる誰もが気づいたはずだった。しかし誰も引かない状況を見ると、芹香に断るという選択肢は残されていないように思えた。

「どうかな? やってくれるね?」

 父の言葉に返事を躊躇っていると、誠吾が立ち上がって芹香の隣に立ち、スッと手を差し出す。

「こんなに美しい女性が隣にいれば、誰も私を引き止めたりしないでしょうね」

 誠吾は隙のない笑顔を浮かべていて、彼がどんな感情でその言葉を口にしたのかは読めなかった。
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