Better late than never〜失った恋だけど、もう一度あなたに恋してもいいですか?〜
3 二人きり
パーティーの会場であるホテルに到着すると、既に誠吾がロビーのソファに座って待っていた。
パーティーの参加者も集まり始めている時間帯で、正装をした多くの人が行き交っている。しかしこれだけたくさんの人がいても、芹香の目にはしっかりと誠吾だけが映る。それが芹香には癪だった。
兄と共に彼のそばまで歩いていくと、二人に気付いた誠吾が立ち上がって手を挙げた。
「すみません、お待たせしました」
「いえ、私も今来たところですから」
二人が言葉を交わす間、芹香は俯いたままバッグを握る手に力を込める。彼も着替えたようで、濃紺の細身のスーツが体の線をなぞり、彼のスタイルの良さを際立たせていた。その魅力的な姿に、一瞬見惚れた自分を頭から追い払う。
彼と二人きりになるのはいつ以来だっけ──車に揺られている間、ずっと考えていた。しかしいつも家族がそばにいたということを思い出し、急に不安に襲われたのだ。
小学生の頃に勉強を教えてもらっていた時は、部屋の中に二人きりだったが、今は互いに大人になり、芹香も無邪気なあの頃とは違う。
記憶を手繰り寄せていくと、一つの結論に至った。
きっと彼に告白をした時が最後なんだわ──そう考えると、何を話せばいいのかもわからなくなる。天気の話、家族の話、仕事の話……違和感なくやり過ごせるか不安しか残らなかった。
「じゃあ芹香。明智さんのサポートを頼んだよ」
芹香はハッとする。自分が誠吾のサポートのために来たことを忘れていた。余計なことを考える必要はないのだと自分に言い聞かせ、小さく頷いた。
「えぇ、わかってる」
芹香が答えると誠吾と秀之は顔を見合わせて頷き合い、それから兄は会場の方へと歩き出した。
兄の背中を見送っていると、誠吾の視線を感じて芹香は困ったようにそっぽを向いた。
「な、なんですか……」
緊張から、つい言葉がぎこちなくなる。
「あぁ、すみません。とてもよく似合っているなと思っただけです」
彼の目が芹香のドレスに向いていたことがわかり、恥ずかしくなって下を向く。紺色のフレアースカート、袖が同色のレースの素材のドレスだった。決して派手なデザインではなかったが、それを褒められたものだから頬が熱くなる。長い髪をアップにしていたこともあり、首まで赤くなっているのではないかと心配になった。
「あ、ありがとうございます……」
「まるで私とお揃いですね」
その時に誠吾と色が被っていることに気付いて、思わず頭を抱えた。
「ごめんなさい! 今すぐ着替えて──」
「何故ですか? 私はその方が助かります。二人の関係性を主張するようで良いと思いますよ」
「……ではこのままで……」
「えぇ、是非。芹香さん、もし良かったらこちらに座りませんか? 開場までまだ時間がありますし、少しお話しておきたいこともあるので」
誠吾がソファへと促したので、芹香は戸惑いながらも、なるべく彼との間に距離を置くようにして隣に腰を下ろした。
パーティーの参加者も集まり始めている時間帯で、正装をした多くの人が行き交っている。しかしこれだけたくさんの人がいても、芹香の目にはしっかりと誠吾だけが映る。それが芹香には癪だった。
兄と共に彼のそばまで歩いていくと、二人に気付いた誠吾が立ち上がって手を挙げた。
「すみません、お待たせしました」
「いえ、私も今来たところですから」
二人が言葉を交わす間、芹香は俯いたままバッグを握る手に力を込める。彼も着替えたようで、濃紺の細身のスーツが体の線をなぞり、彼のスタイルの良さを際立たせていた。その魅力的な姿に、一瞬見惚れた自分を頭から追い払う。
彼と二人きりになるのはいつ以来だっけ──車に揺られている間、ずっと考えていた。しかしいつも家族がそばにいたということを思い出し、急に不安に襲われたのだ。
小学生の頃に勉強を教えてもらっていた時は、部屋の中に二人きりだったが、今は互いに大人になり、芹香も無邪気なあの頃とは違う。
記憶を手繰り寄せていくと、一つの結論に至った。
きっと彼に告白をした時が最後なんだわ──そう考えると、何を話せばいいのかもわからなくなる。天気の話、家族の話、仕事の話……違和感なくやり過ごせるか不安しか残らなかった。
「じゃあ芹香。明智さんのサポートを頼んだよ」
芹香はハッとする。自分が誠吾のサポートのために来たことを忘れていた。余計なことを考える必要はないのだと自分に言い聞かせ、小さく頷いた。
「えぇ、わかってる」
芹香が答えると誠吾と秀之は顔を見合わせて頷き合い、それから兄は会場の方へと歩き出した。
兄の背中を見送っていると、誠吾の視線を感じて芹香は困ったようにそっぽを向いた。
「な、なんですか……」
緊張から、つい言葉がぎこちなくなる。
「あぁ、すみません。とてもよく似合っているなと思っただけです」
彼の目が芹香のドレスに向いていたことがわかり、恥ずかしくなって下を向く。紺色のフレアースカート、袖が同色のレースの素材のドレスだった。決して派手なデザインではなかったが、それを褒められたものだから頬が熱くなる。長い髪をアップにしていたこともあり、首まで赤くなっているのではないかと心配になった。
「あ、ありがとうございます……」
「まるで私とお揃いですね」
その時に誠吾と色が被っていることに気付いて、思わず頭を抱えた。
「ごめんなさい! 今すぐ着替えて──」
「何故ですか? 私はその方が助かります。二人の関係性を主張するようで良いと思いますよ」
「……ではこのままで……」
「えぇ、是非。芹香さん、もし良かったらこちらに座りませんか? 開場までまだ時間がありますし、少しお話しておきたいこともあるので」
誠吾がソファへと促したので、芹香は戸惑いながらも、なるべく彼との間に距離を置くようにして隣に腰を下ろした。