Better late than never〜失った恋だけど、もう一度あなたに恋してもいいですか?〜
* * * *

 体に伝わる振動が徐々に大きくなり、ブレーキをかけた時の重力を感じて芹香は目が覚めた。

 真っ暗で圧迫感を感じる狭い空間は、そこが車のトランクであることを伝えていた。そして背中側で両手、そして両足を縛られているため身動きが取れない上に、口はテープで塞がれ叫び声を上げることも出来ない。

 やっぱり太一が──そう思うと悔しくて涙が出てくる。どうして私はあの時に兄さんか明智さんを呼ばなかったんだろう。そうすればこんなことにはならなかったはずなのに──自分自身の不甲斐なさに呆れた。

 やはり副社長が主犯で、太一は共犯者なのだろうか。前回は犯人の顔を見なかったから、芹香は無傷で解放されたのだと警察の人が言っていたが、

 じゃあ今回はどうだろう。太一が芹香を連れ去ったことはわかっている。それならば今回は命の保証はないのではないだろうけど──危険を感じ、芹香の体に震えが走る。

 その時に体に大きな重力を感じ、車が停車したことがわかった。扉が開き、勢いよく閉まる音が響く。芹香の心臓が早鐘のように打ち、耳元にまではっきりと音が聞こえて来る。冷や汗が出て、呼吸が乱れ始める。

 どうしよう……怖い……! ──トランクの扉に誰かが手が触れたような微かな音がし、唇を噛みしめ目をギュッと閉じた。

 しかしトランクが開くのと同時に、(まばゆ)い光が差し込み、芹香は思わず目を閉ざした。たくさんの足音や声がしたことで、どこかで安心感が生まれ力が抜けていく。

 あぁ……あの時と同じだわ……。五年前に山小屋で私を見つけてくれたあの時と……。あとは明智さんの声が聞こえたら──。

「芹香!」
「芹香、大丈夫か⁈」

 ガチャガチャと騒がしい中、芹香の耳に響いたのは父と兄の声だった。そして二人は涙を流しながら心配そうに頭や顔を撫でてくる。その途端、極度の緊張感から解放された芹香の目からも、大粒の涙がこぼれ落ちた。

 拘束されていた芹香の手足が突然自由になり、ゆっくりと起き上がると、ようやく父と兄の背後で安堵の笑みを浮かべる誠吾に気付くことが出来た。

「明智さん……」

 どんな時も、私を最初に見つけてくれるのはあなたなんだわ──芹香は体の力が抜けて行くのを感じた。

 誠吾は芹香の手を取り優しく両手で包み込むと、へたへたとその場に座り込んだ。

「あ、明智さん……?」
「無事で良かったです……」

 彼の手の震えから、心から心配してくれていたことが窺え、そのことが芹香の胸を熱くする。

 突然芹香に手を引っ張られた誠吾は、導かれるように立ち上がる。その瞬間、芹香は誠吾に強く抱きついた。
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