Better late than never〜失った恋だけど、もう一度あなたに恋してもいいですか?〜
 どれくらいの時間が流れたのだろう。誠吾が目を覚ますと肩には芹香のカーディガンが掛けられていた。

 芹香はというと問題を解き終え、本を読んでいたようだが、彼女も疲れていたのかそのまま机に突っ伏し寝息をたてていた。

 誠吾は芹香をベッドに運ぶことを考えたものの、小学生とはいえ年頃の女の子にそんなことをしていいものかとか悩み、とりあえず自身に掛けられていたカーディガンを芹香の肩に掛け直した。

 まだ何にも染まりきってない、あどけない表情の白く柔らかい肌が誠吾の目に眩しく映る。

 きっと目に入れても痛くないっていうのはこういうことを言うんだろうな──彼女自身も毎日の塾通いなど疲れているはずなのにそれを微塵も感じさせず、むしろ周りに気を遣っている。両親が厳しいからか、元々この子が持っているものなのかはわからなかった。

 小学生に気を遣わせる大人ってどうなのだろう── つい彼女の親切心に甘えてしまう自分を反省する。

 その時、芹香がモゾモゾと動き目を覚ます。そして自分が寝ていたことに気付いて恥ずかしそうに頬を両手で押さえた。

「ご、ごめんなさい! 寝ちゃうなんて……」
「いいんですよ。私も休ませてもらいましたし。とりあえず今日はここまでにしましょう」
「えっ……でも……」

 すると誠吾は芹香の頭に手を載せ、にっこり微笑む。

「一日くらい休んだって、あなたはそれ以上の努力をしているのを知ってますよ。だから今日はゆっくり休んでくださいね」

 芹香は嬉しいような寂しいような、複雑な表情で誠吾を見つめた。

「明智さんは……すごく優しいから……」
「そうですか? 私は芹香さんの方が優しいと思いますけどね」

 誠吾の言葉を聞いた芹香は、なるべく声を上げないように笑い始める。その時の揺れで髪が一房流れ落ちる。それをそっと耳にかける仕草に、誠吾は思わず胸がドキッとした。

「そんなふうに言われたら嬉しくなっちゃう」

 母親の影響なのか、彼女の所作の美しさは前から感じていた。しかし可愛らしさの中に突然現れたまるで大人の女性のような仕草に、誠吾は胸を掴まれてしまう。

 何を考えてるんだ……! ──十歳も下の子に一瞬でも邪な感情を抱いてしまったことに反省をし、慌てて荷物を持って立ち上がる。

「ではまた来週に」
「はい、お願いします」

 芹香に見送られながら、誠吾が鳴り止まない鼓動を抑えるよう深呼吸を繰り返した。
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