結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
***



「やったわ……!」

ローマから出航した船の中で能天気な日本語を耳にした俺は、思わず足を止める。

声の方向を見れば、バラ色のイブニングドレスを着た女性がルーレットに興じていた。

まだ若い。おそらく二十代前半、成人したばかりだろう。

手もとには積み上がったチップ。ディーラーに目をつけられていると、すぐにわかった。

あえて最初は勝たせて調子づかせ、じわじわと金を巻き上げていく――ヤツらの常套手段だ。

――あのお嬢さん、カジノは初めてか。

女性のチップが奪われていくさまを遠巻きに眺めながら、あの眼鏡の紳士もグルだなと当たりをつける。

政府の管理下にある大規模なカジノであればイカサマはできないだろうが、ここは船上、監視の目も行き届かない。

加えて、この船には今とある疑惑がかけられている。国連職員の兄は、その調査のために俺を巻き添えにしてこの船に乗り込んだ。

兄から「連中が本当にイカサマをして荒稼ぎしているのか、軽く探りを入れてきてくれないか」と無茶ぶりされた俺は、あらかた目星をつけてその場を立ち去ろうとした。

しかし、気まぐれに餌食にされているその女性を哀れに思い、足を止める。

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