結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
「お察しの通り、それは手切れ金だ。綿来製鉄はまだ完全に経営を立て直せていない。その金がなくなれば潰れるだろう」

「それで菫花は失踪か」

俺から逃げるかのように彼女は消えた。

兄たちは菫花を引き離せば、俺がとっとと縁談に応じると考えたのだろう。

「その契約は、今も祖父のお気に入りの弁護士が管理している。ほら、以前、理仁と縁談の話が持ち上がったあの女性弁護士だ」

彼女か、と俺は嘆息する。三原奈々子(ななこ)、代議士の娘らしい。祖父がいたく気に入っており、俺との結婚を勧めていた。もちろん、俺は断ったが。

「……三年以上も理仁が綿来のお嬢さんに執着するとは誤算だった」

「ふざけるな」

人の人生を狂わせておいて、どの口が言うか。

俺が睨みつけると、兄は懲りずに笑みを深め「いいか、理仁」と切り出した。

「祖父が死んで、状況は変わった。お前の結婚相手にこだわる古くさい人間は、もういない」

口座の写しを俺の胸もとに突きつけ、狡猾な微笑を浮かべる。

「お前個人が祖父に代わり、その額を出資するのは難しいだろう。だが綿来家の跡取りであれば話は別だ」

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