結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
「家業を心配しているのなら、以前にも話した通り、綿来製鉄へは俺から出資する。妻の実家に手を貸すのは、当然だ」

「それは……」

綿来製鉄は、以前よりも負債が減ってきてはいるものの、まだまだ出資がなければ経営が難しい状態だ。

理仁さんが手を貸してくれるなら、安心であることは確かだが……。

「なにより、俺は菫花と一緒にいたい。もしも俺が杏花の父親で、実の娘に親らしいことをなにひとつしてやれないのだとしたら、俺は自分を許せない」

「理仁さん……」

ぐらりと天秤が大きく振れる。理仁さんに真実を伝えないことが、本当に正しいと言えるだろうか? 私の決断は間違っているの? 

「菫花。もう俺を愛していないというのなら、夫としての居場所は求めない。だが、せめて教えてほしい。杏花が俺の娘なのかどうか」

理仁さんが私の手を握る。

洗い物をしたばかりの彼の手は冷たい。だがふたつの手が重なると、そこにぬくもりが生まれ、じんわりと熱を持ち始めた。

「俺はこの三年分の贖罪がしたい」

――私は酷なことをしたのだろうか。理仁さんに、実の娘の存在を伝えずここまで来てしまうなんて。

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