課長に恋するまで
「一瀬君、今帰り?」

 座っている私の前に立つと、課長が聞いてくる。

「……はい。課長も?」
「うん。神楽坂で接待しててね。芸者さんにも来てもらって、賑やかだったよ」

 お酒が入ってるみたいで、課長は上機嫌に見える。

「課長、座りますか」
「一瀬君が座ってなさい。会社を出た後も上司に気を遣わないでいいから」

 課長がクスッと笑った。

「一瀬君はそういう所、本当、真面目だよね」
「そうですか」
「だから一瀬君には安心して仕事を任せられる」

 褒めてもらって単純に嬉しい。
 奥さんが亡くなった事を知らずに落ち込んでいたけど、課長に会ったら落ち込んでいた事が吹き飛んだ。

 ただ顔を見合わせて話してるだけで幸せ。

「本社に来て一年経つけど、一瀬君のような優秀な部下に恵まれて良かったよ。僕は幸せ者だよ」
「課長、褒めて、また何か大きな仕事をさせようとしてません?」

 照れ臭くて、冗談で返した。

「バレた?」

 課長が冗談に乗るように軽い調子で言った。
 いつもより親しみのある言い方に嬉しくなる。

「もうー、レイ・リーの仕事大変だったんですから」

 わざと大変そうに言ってみる。
 課長が「有能な部下を持つと上司は楽ができるよ」と笑った。
 そんな軽いやり取りが楽しい。
 課長に認められた気がして心が弾んだ。
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