愛のかたち
 その日は米も購入し、かなりの大荷物になった。

「彩華ちゃん」

 エレベーターを降りたところで、野上に声を掛けられた。

「はい」

 買い物袋を両腕にぶら下げ、更に十キロの米袋を抱きかかえた格好で、頭を傾け返事をした。
 足元が見えていなかった彩華が、段差に躓いてバランスを崩した瞬間――米袋ごと野上に抱えられていた。

「おいおい! 彩華ちゃん、それでスーパーから帰ってきたの?」
「はい」
「はい、じゃないよ。危ないだろ!」

 米袋を抱えた野上の表情は、明らか怒気を帯びていた。

「すみません……」

 彩華が表情を強張らせると、野上は慌てた様子を見せた。

「あ、ごめん。違うんだ。怒ってるんじゃなくて、怪我されたら困るから言ってるんだよ」

 当然のことだ。勤務時間中に社員に怪我をされては、会社としては色々困ることがあるだろう。

「すみません」

 彩華はもう一度謝った。

「荷物が多い時は声掛けてくれれば車も出すし、俺も運ぶの手伝うから。次から絶対に無理はしないで」
「わかりました」

 初めて向けられた野上の険しい表情と強い口調に気圧され、彩華は俯いた。

「彩華ちゃんに怪我されると、俺が困るんだ」

 彩華が顔を上げると、野上はいつもの優しい表情を向け、頭をポンポンと撫でた。
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