溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る
「なんか。不思議ですね」
「え……? 不思議?」
話の区切りがきて、ふと自分の見ている光景にそんなことを口走っていた。
「私は、ここで晃汰さんの秘書として働いていたのにって、そんなことをふと思って」
あの頃の私に、今ここに存在している現実が想像できただろうか。
絶対にできないし、考えること自体もないだろう。
晃汰さんがふっと笑みをこぼす。
「確かにな。産科で、こんなにお腹を大きくした〝小野寺〟の手を握るなんて、考えもしない未来だった」
わざと私のことを旧姓で呼んだ晃汰さんは、口角を上げてどこか意地悪な表情を滲ませる。
「ほんと、そうですね。〝水瀬院長〟との赤ちゃんがお腹にいるなんて、絶対に考えられなかった」
そんなことを言い合って笑い合う。振り返ればいろいろあったけれど、どれも皆んないい思い出ばかりだ。
「でも、すごく幸せだ。今こうして、千尋のそばにいられることが」
「晃汰さん……私もです」
温かい手を握りながら、微睡みの中に徐々に意識が落ちていく。
そういえば昨晩は寝不足気味だったなと思いながら、静かに瞼を閉じていった。