溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る
婚姻届を出すって、籍を入れるって、こんなに簡単であっという間に済んでしまうものなのかと、再び乗り込んだ車内でひとりぼんやりと考えていた。
本当ならもっと、ドキドキわくわくして、その瞬間がふたりの新たなスタートなのだと、一生の記念に残るもののはず。
だけど、私たちの入籍は単なる事務処理にすぎなかった。
持ち合わせた感情といえば動揺だけ。水瀬院長に至っては特になにも感じなかっただろう。
こんなものなのかと、今は気が抜けたような状態でぼうっとしてしまっている。
もう、水瀬院長とは夫婦という関係。私は、彼の妻になったんだ……。
「着いたぞ」
考え事をしながらぼんやりしている間に、いつの間にか車は駐車場へと停車していた。
こんなに呆然としてしまうことは人生で初めてで、自分が相当狼狽えていることを身をもって知る。
ここは……。
見覚えのある地下駐車場にいて、この後に榊へ食事に行く予定だったことを思い出しハッとした。
今はプライベートな時間とはいえ、これがもし仕事中だとすれば秘書失格だ。
水瀬院長によって助手席のドアが開かれる。
「すみません、ありがとうございます」
本来ならドアを開けるなんて私の役目だから。こうして水瀬院長にしてもらうとどうしても落ち着かない。