冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする

その日の夜――私たちはもう一度体を重ねてしまった。
私も初めてだし、駆さんだってパイロット人生の中で最も過酷な日だったというのに。
しかも私が止めなければ、もう一回くらい……ありそうな勢いだったのだ。
駆さんの場合、極度の疲労が関係し、子孫を残そうという本能が働いたのだろうかと思ってしまう。

そんな推測を、翌朝朝食を一緒に食べながら伝えると、彼はいたって真剣な顔で訴えかけてきた。

「断じて違う。安奈が可愛いからという理由しか存在しない」

「は、はぁ」

パンをかじりながら、彼は当たり前のように言い放つ。

(駆さんってこんなキャラだっけ)

前々から正直者だとは思っていたけれど、恋人に対してここまでストレートに愛情表現してくれる人なんだと驚いてしまう。

マグカップに注いだコーヒーを飲みながら、視線を上げる。
駆さんの濃い顔を盗み見ていると、彼は不機嫌そうに眉を顰めながら唇についたマーマレードジャムを指で拭った。

「あんまり見るな。照れるだろう」

「もしかして駆さん、今まで私を避けてたのって全部照れ隠しなんですか?」

「…………」

だんまりを決め込む駆さんをみて、私は思わずぷっと噴出した。
走馬灯のように脳内に繰り広げられる、険悪な日々。
あれらがすべて愛情の裏返しと考えると、余計に彼が可愛く見えてくる。

(本当、子供みたいだな)

何もかも完璧にこなす駆さんの弱点を知ってしまった。
少しの優越感に胸に、彼に微笑みかける。

「もう、本当に何やってるんですか。五年間も」

「自分でも分かっている。だから契約結婚出来て、心からラッキーなんだ」

駆さんは少々落ち込んだように吐き捨て、残りのパンを口の中に放り込んだ。
その瞬間、彼の左手首に嵌められている時計を見て、私はあっと声を上げた。

「ちょっと待ってください! その時計って……!」
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