冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする

三十年以上苦楽を共にした兄弟は、一瞬で最も知られたくない秘密を見破ってしまったのだ。
なんとかその場は誤魔化したが、伊織は既に確信を持っているだろう。

(とにかく、村瀬に言ってしまったんだ。後は返事を待つだけだ)

先程クレーム客に渡した時計はもらいものだし、なんの思い入れもない。
彼女を救うためなら躊躇いなく渡すことができた。
もちろん見返りも求めていなかったが、彼女が自ら俺の前にやって来て、考えが百八十度変わってしまった。

『契約結婚をしている間に、俺のことを好きになってもらう』。

金で釣るなんて最低だと思うが、片思いを実らせるためにはこれしか残っていない……そう思った。
俺のトップシークレットは、村瀬安奈のことを想っていることだ。
しかも彼女がうちの会社に入社してからだから、五年になる。
一目見てから、村瀬の眩しい笑顔に釘付けになった。
そこから目で追いかけるようになり、彼女の優しいところや思いやりのある所を知っていって、いつしか心まで掴まれてしまった。

ただ昔から、好きな女性には、どうやって振舞えばいいか分からなくなる。
優しくしたら、好意がバレて引かれてしまうかもしれない。
嫌われたくない――そんな恐怖がたたり気さくに話しかけることができず、ついに彼女に嫌われしまった。
こうなってしまえば、さらに距離を縮める術が分からなくなり、関わりづらい上司に降格していったというわけだ。
しかも彼女は、伊織のことを慕っているから厄介だった。
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