素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる
 すぐそこでサハラ室長からアリスのいる仮眠室の番号だけ聞くと、足音を潜めたゴトフリーは静かに扉を開いた。

「……アリス」

 問いかけるような、抑えた声音は別に答えを期待している訳ではないようだった。寝たふりを決め込んだアリスは内心ドキドキしながら彼が何をするかを待っていた。

 ゆっくりと近寄ると、ゴトフリーはアリスの額にキスをしてちいさな声で優しく囁いた。

「好きだよ、アリス。いってきます」

 その言葉にこの前からアリスの中に巣食っていた不安とか寂しさとか、とにかくもやもやとしたその黒い感情が弾けて飛んで行ってしまうのを感じた。

 彼はゆっくりとした動作で頭を一度撫でてから、すぐに音を立てないようにして帰っていってしまった。

 廊下を歩いているゴトフリーの足音はすぐに聞こえなくなって、サハラ室長の「あれ?もう帰っちゃうのー?」という遠慮のない声だけ聞こえてきた。

 アリスは薄闇の中、ゆっくりと目を開けるとさっきまで居た彼のくれた熱を逃がさないように額に触った。

(……私も好き。バカ)
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