社長は身代わり婚約者を溺愛する
「あの社長も、ようやく身の納め時か。」

私は背中越しに聞いているけれど、何となく分かる。

信一郎さんの事、よく思ってないんだって。


「しかし、御曹司って言うのは、こうも簡単に社長の座が来る訳だ。」

「我々がどんなに頑張っても、やって来ないですからね。」

どうしてあんな人達が、信一郎さんの周りにいるの?

私は、ふとその人達の方を見た。

しかも運悪く、その内の一人と目が合ってしまった。

「何だ?どこの部署の奴だ?」

あまりの口の悪さに、物凄く引いてしまった。

「失礼な奴だな!どこの部署かと聞いてるんだ!」

その人が立ち上がった瞬間、私は目を瞑った。


「どこの部署かなんて、関係ないだろ。」

聞き慣れた声に、思わず目を開けた。

まさか!

「ん?君は……芹香?芹香じゃないか。」

部長から庇ってくれた人が、信一郎さんだなんて!

私は、一歩後ろに下がった。

その時、大会議室のドアが開き、下沢さんが入って来た。

「森井さん、ごめん。遅くなって。」

「えっ?森井さん?」

信一郎さんは、私の社員証を見ると、目を丸くした。

「森井……礼奈?どういう事だ?君は、森井礼奈なのか?」

その瞬間、目の前が暗くなった。
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