社長は身代わり婚約者を溺愛する
信一郎さんが怒るのも無理はない。

好きな相手が、別人だったなんて。

「俺は、君を”芹香”と呼んで抱いていた。」

私は涙を堪えながら、信一郎さんを見つめた。

「本当の名前で抱かれていないなんて、君はどんな気持ちだったんだ。」

私の目から、涙が零れた。


辛かった。

本当は私の本当の名前を、知って欲しかった。

でも、それよりも信一郎さんと一緒にいる事が、嬉しくて。

自分の気持ちが、麻痺していた。


「お願いだ。どういう事なのか、教えてくれ。」

信一郎さんは、私の涙を拭ってくれた。

「教えてくれ、礼奈。」

初めて、私の名前を呼んでくれた。

身体が震えてきた。

「礼奈。どうして芹香さんと、入れ替わった?」

震えて震えて、涙さえ震えているような気がした。

「俺が愛したのは、礼奈なんだよな。」

ダメだ。

これ以上、嘘をこの人にはつけない。

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