社長は身代わり婚約者を溺愛する
私も信一郎さんを、ぎゅっと抱きしめた。

「愛してる、礼奈。」

私の唇に、信一郎さんの唇が触れた。

「でも、結婚はできない。」


どこかで待っていた、その台詞。

実際聞くと、こんなにも心が壊れるものなんだね。


「沢井の家とは、政略結婚なんだ。芹香さん以外の人と、結婚はできない。」

「芹香には、他に好きな人がいるよ。」

「だとしても、沢井のお父さんが、俺と芹香さんを結婚させると思う。」

あくまで、信一郎さんと結ばれるのは、芹香なんだね。

「ごめん。本当にごめん、礼奈。」

信一郎さんは、泣きながら謝ってくれている。

「君を愛している事に、偽りはないんだ。」

「うん……」

「でも、俺は……家を裏切れない。」


ああ、だんだん力が抜けて行く。

「礼奈?」

信一郎さんの声が、遠のいていく。

「礼奈、しっかりしろ。礼奈。」

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