社長は身代わり婚約者を溺愛する
心臓がドキドキして、止まらない。

芹香は、明らかに信一郎さんに、敵意をむき出しにしている。


「私達の結婚で、いくら動くはずだったか、ご存じですか?」

「……1億ですか。」

信一郎さんは、静かに答えた。

「それは、沢井が貰えるはずのお金でいいでしょうか。」

信一郎さんは、黙ってしまった。

私達と芹香の間に、冷たい風が吹いた。

「お願いです、黒崎さん。私、本当の事を知りたいんです。」

芹香の真剣な顔、初めて見たような気がする。

いつも天真爛漫で、笑顔を絶やしたことのない彼女の、本当の顔を。

「これは、父から聞いた話なのですが。」

「ええ。」

あまりの重い話に、私は足が震えている。

それを、信一郎さんが支えてくれていた。

「初めに、政略結婚を申し出たのは、沢井の家だそうです。」

「そうですか。」

「1億、援助してくれないかと。その代わりに、娘をやるからと言っていた。」

芹香から伝わる悲しさは、私にも分かった。

「お母様、若年性認知症だそうですね。」

信一郎さんの言葉に、芹香は目を大きく開けた。
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