社長は身代わり婚約者を溺愛する
信一郎さんが、コーヒーを差し出すと、上品にそれを飲む。

さすが芹香は、躾がなっている。

「あら、美味しい。」

今日は機嫌がいいのか、終始芹香は笑顔だ。


「芹香さん、今の内に言っておきたいんだが。」

信一郎さんが、芹香の向かいの席に座る。

「今、俺と付き合っているのは礼奈なんだ。あまり、礼奈を刺激しないでくれ。」

「分かっているわ。結婚するまでの繋ぎだもんね。」

はあ⁉と言いそうになったのを、信一郎さんが止めた。

「礼奈、私達。ライバルね。」

「ライバルって……」

「どっちが黒崎さんの気持ちを射止めるか、戦いね。」

ちょっと呆れる私に、信一郎さんはまあまあと、私の背中を摩る。


「黒崎さん、これからは私とも、付き合ってもらうわ。」

「いえ、俺、そういう事は……」

「会社の取引がどうなってもいいの?」

私の苛立ちは、ピークに達した。

「さっきから聞いていれば、言いたい放題言っちゃって!」

私はテーブルを叩いた。

「お金に困ってるのは、芹香の家でしょ!」

すると芹香は、クスクス笑いだした。
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