社長は身代わり婚約者を溺愛する
芹香の嬉しそうな声が響く。

会場からは、拍手喝采が送られる。


どういう事?

信一郎さん、芹香と婚約したって!


その時、信一郎さんと目が合った。

私は慌てて、パーティー会場から出た。

「と言う訳でございまして、今から芹香お嬢様、信一郎さんの婚約パーティーとさせて頂きます。」

司会の人の案内を、背中で聞いた。


「待ってくれ、礼奈!」

信一郎さんの声が聞こえて、空耳かと思ったら、腕を捕まってしまった。

「俺も驚いているんだ。」

「でも、何もしていないのに、芹香がこんな事をするわけない。」

「本当に何にもないんだよ。パーティーに出席して欲しいって言うから、来ただけなんだ。」


と言う事は、芹香の作戦勝ち?

私は、笑えてきた。

「こんな大勢の人に、婚約者だって紹介されたら、もう断れないじゃない。」

信一郎さんは何も言ってくれない。

「もう私達、終りね。」

「礼奈!」

「さようなら、信一郎さん。」

信一郎さんの手をすり抜けた腕が、やけに冷たかった。

< 219 / 269 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop