社長は身代わり婚約者を溺愛する
私はガバッと顔を上げると、慌てて奥の部屋に避難した。

「私はいないって言って。」

「いや、いるって言ったし。」

「追い返して!」

「いや、もうここにいるし。」

振り返ると、お父さんの後ろに、信一郎さんがいた。


「礼奈。そんなに俺の事、嫌いなのか。」

ショックを受けてる信一郎さんに、お母さんがお茶を出した。

「礼奈は、もう別れたって言ってますよ。」

「いえ。俺はそんな事言っていません。」

「でも、芹香ちゃんと婚約したんでしょ。」

「あれは先方が勝手に言っているだけです。」


信一郎さんが、奥の部屋までやってくる。

「礼奈。」

「来ないで!」

「俺の事、嫌いになったのか?」

その言葉に、胸が痛む。

そんな訳ないじゃない。

今でも、信一郎さんの事が好きだよ。

そう思うと、涙が出てくる。

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