社長は身代わり婚約者を溺愛する
「だが、沢井家とはもう、金銭のやり取りをしているんだ。」

「申し訳ありません。僕には、どうしても芹香さんと結婚はできません。」

「信一郎!」

お父さんが立ち上がった時だ。


奥から、一人の老人が姿を現した。

「お父さん!」

「おじい様!」

信一郎さんと、お父さんが一斉に頭を下げている。

何?この状況。

「信一郎の思う通りにしてやってくれないか?」

その声は、もう弱弱しく枯れていた。

「俺にも、昔。結婚を約束していた女性がいたんだ。でも、ばあさんと結婚しろと言われて、別れてしまった。」

信一郎さんのおじい様がこちらを向いた。

「その女性と別れた事は、今でも後悔している。信一郎にはそんな思いをさせたくない。」

「おじい様。」

見れば、もう目が白く濁っていて、相当なお年を召しているのだなと分かった。


「礼奈さんだったかな。」

「はい!」

おじい様は、信一郎さんとそっくりな笑顔を見せてくれた。

「信一郎を宜しく。」

「はい……おじい様、有難うございます。」

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