社長は身代わり婚約者を溺愛する
「どうして、私じゃダメなの?」

「芹香……」

私は芹香に近づこうとした。

すると信一郎さんが、首を横に振る。

止めておけと言うサインだ。


「私は、沢井家の令嬢よ!どこに文句があるって言うの!」

「芹香さんに、文句はない。」

信一郎さんが、芹香と話をする。

「だったら、どうして!」

「俺は礼奈を愛している。嘘ついてまで、俺と一緒にいようとした礼奈が、愛おしくてたまらないんだ。それだけだ。」

芹香は、怒りで体が震えている。

「……支度金はどうするのよ。」

「支度金?」

「結婚する条件で、振り込まれたお金よ!」

何だか、お金を気にしている芹香が、醜く見える。


私と一緒にいる時、芹香はお金の事なんて、一切気にした事がなかった。

そういう家に生まれた事が、羨ましいくらいに。


「ああ、それか。それなら気にしない。」

「えっ……」

「返金しなくてもいい。俺との結婚を諦めてくれれば。」

「馬鹿にしないで!」

芹香はまたバッグを振りかざした。
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