社長は身代わり婚約者を溺愛する

第25話 生産が追い付かない

それからしばらくして、信一郎さんと連絡が取れなくなった。

仕事が忙しいのだろう。

そう思っていた。


そんなある日、買い物に出かけようとして、家を出ると沢井家の車が、前を過ぎた。

「芹香?」

車は少し進んで、後部座席の窓が開いた。

「礼奈。」

いつも通り、私の名前を呼んでくれる芹香に、ほっとした。

もしかして、前の芹香に戻ったのかもしれない。

私は、少しずつ芹香に近づいて行った。


「元気?」

「うん、芹香は?」

そう聞いて、ハッとした。

芹香は、少し痩せたみたい。

「あの後、よく考えて黒崎さんとの結婚は、お断りしたの。」

「そう。」

やっと信一郎さんとの事、諦めてくれたんだ。

「黒崎さんっていい人ね。支度金も、返さなくていいなんて。」

「信一郎さん、そういうところあるから。」

やっと芹香と穏やかに話せる。

私はその嬉しさでいっぱいだった。
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