社長は身代わり婚約者を溺愛する
私は慌てて、信一郎さんに電話を架けた。

でも出ない。何回も何回も架けて、やっと信一郎さんは電話に出てくれた。

「信一郎さん、会社大丈夫?」

信一郎さんは、”ああ”としか言わない。

「今、芹香に聞いたの。信一郎さんの会社、倒産するかもしれないって。」

「参ったな。そこまで聞いてるのか。」

その一言で、芹香の言葉はあながち間違っていないと知った。


「沢井薬品が、グループでウチの会社との取引を引いたんだ。その数は、10社にも上って……」

「10社⁉」

「売り上げが急に厳しくなった。資金繰りが上手くいかなかったら、芹香さんの言う通りに、倒産するかもな。」

「そんな……」

家の門をくぐり、工場の中を見た。

お父さんとお母さんが、慌ただしく働いている。


「とにかく、礼奈は心配しなくていいから。」

信一郎さんは、優しい口調で言ってくれた。

「うん。信じてる。」

「ありがとう。」

電話は切れて、私は工場に顔を出した。

「ただいま。今日は、残業?」

するとお父さんが、私を見て手招きをした。

「礼奈、手伝ってくれないか?」

「何を?」
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