社長は身代わり婚約者を溺愛する
「何?」

芹香は不機嫌な表情をしている。

きっと私が言う事を、分かっているんだろう。


「……もう一度だけ、芹香を名乗らせて欲しいの。」

「えっ?」

「お願い、もう一度だけ。それが終わったら、もう会わないから。」

芹香は困った顔をしていた。

「だから何も、礼奈として会えばいいじゃない。」

「私では、ダメなの。」


貧乏な家の私では、信一郎さんは納得してくれない。

芹香じゃなければ。

お金持ちのお嬢様じゃなければ、信一郎さんは会ってくれない。


「分かった。でも、条件がある。」

「条件?」

芹香は、私に近づいて来た。

「もう一度会った時に、自分の名前を名乗る事。」

「えっ……」

私は息を飲んだ。

「黒崎さんが本当に礼奈の事を気に行っているのなら、お嬢様じゃなくても礼奈に会ってくれるよ。」

「それは……」

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