社長は身代わり婚約者を溺愛する
私はその目を、裏切れなかった。

「うん。」


ああ、芹香。許して。

やっぱり私は、自分だと名乗れない。

このまま、芹香でいさせて。


その時、エレベーターが部屋のある階に、到着した。

「ここだよ。」

私は信一郎さんに連れて行かれるままに、エレベーターを降りた。

部屋の鍵を開けて、信一郎さんは私の背中を押した。

「ええー!」

そこには、都内を一望できる場所があった。

「綺麗……」

こんな場所があったなんて。

私は生まれて初めて、心の奥から感動した。


「ここから見る夜景も綺麗だよ。」

「うん、うん。」

私は興奮する気持ちを抑えて、その景色を目に焼き付けた。

その内に、信一郎さんは私の荷物をソファーに置いた。

「すごい荷物だね。」

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