海色の世界を、君のとなりで。

「わ、美味しそうな卵焼きだ」


中庭に鎮座するベンチに並んで座り、なおも暗い顔をしている可奈のお弁当を覗き込む。

そこには美味しそうな卵焼きが二つ入っていた。

どうにかして彼女の沈んだ気持ちを上げないと。

その一心で、思ったことを声に出してみる。


さらりと吹く風に髪が揺れ、石鹸の香りが鼻先をかすめた。


「……一個、いる?」


消えそうな声で訊ねてくる可奈。

ここで断ってしまったら、彼女はもっと落ち込んでしまうような気がして、慌てて口の端を上げて笑みをつくった。


「うん。いる」


その言葉に、僅かに目を開いた可奈。

少しだけ頰が緩んでいる気がして、小さく安堵する。


「あ……箸、ないや」
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