海色の世界を、君のとなりで。
そのとき、部室のドアにかけた手が、止まった。
ハッと目を見開く。
「……ほんと、うざいよね」
「とりま練習来ないでほしいよね、下手なら迷惑かけるなっつーの」
そんな声が部室の中から聞こえてきたから。
思わずドアノブから手を離して、ドアを見つめた。
壁が薄いのか、小さくとも声ははっきりと聞こえてくる。
鞄を取りに入ろうにも入れず、盗み聞きをしてはいけないと分かっていても気になってしまい、やや逡巡する。
わたしが悩んでいる間にも、会話は弾みを増し、より大きくはっきりと耳に届くようになった。
「でも、あそこまで下手だと大変だよね」
「可哀想だよね、うちら。今日のダッシュだって、ほぼ可奈のせいじゃん」
────可奈。
親友の名前は、嫌でも耳が拾ってしまう。