とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「よかった。俺さあ、最近彼女と別れたばっかりで」

「そうなんですか」

だからどうした。
急にしおらしくなる男に苛立つ。
そういうのはよそでやれ。

「まだ辛いんだよね。励ましてよ」

「はあ……」

ちらりと横目で邑木さんを見ると、その場の空気を味わうように宙を眺めていた。
その空気の中に、わたしは含まれていない。

他人行儀が過ぎる。

「由紀ちゃん、なんでさっきからあの人見てるわけ」

「見てませんよ。それより飲みましょう。康くん、わたし次はマティーニがいい」

「お前ね……」

康くんが呆れて言ったが、そんなものは無視する。
ギムレットをぐいっと飲み干し、早く、とねだる。

男は拍手し、わたしは出来るだけ笑った。
楽しそうに。浮かれているように。


美人と飲んでないで、早くこっちに来いよ。
ボックス席から男の友達が叫んだけれど、男は大袈裟に手を左右に振って誘いを断わった。
さっさと友達のところに行って欲しかったけれど、今さらここにぽつんと残されてもかっこ悪いかもしれない。

煩わしいと思っていたはずの男が、まるでわたしの命綱になっていた。
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