とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「これ以上は飲むなよ」

康くんは釘を刺してからマティーニを差し出した。

「はいはいはい」

わたしが康くんを真似た返事をすると男が笑い、二度目の乾杯をした。
薄っぺらい祝杯。いったいなにがめでたいのだろう。

「由紀ちゃんはなんの仕事してるの」

「……お兄さんは美容師ですか」

「うん、表参道で。なんでわかるの」

「なんとなく。美容師さんって、もてそうですよね」

「えー。それって、遊んでそうって意味で言ってる?」

そうです。
とは口には出さず、わたしはただ笑う。

美容師だからではなく、それは臭いの問題だ。
男からは遊び慣れてそうな臭いしかしない。

つらつら並べられる言葉。
こちらを測る眼差し。
自然に見せかけたボディタッチ。
計算された視線の投げ方。

こういう男に声をかけられるということは、わたしもそう見られているということだろうか。
射程距離に入ったつもりはさらさらないけれど。
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