とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「そうだ。今度さあ、うちの店に来てよ。サービスするからさ。
俺、めっちゃヘッドマッサージうまいよ?」

粘ついた視線に吐き気を覚え、どうにか笑顔で飲み込む。

本当に、どうして康くんはこいつと友達なのだろう。
アヒージョに顔を突っ込んでやりたい。

「ありがとうございました」

波多野さんの声とともに、聞き覚えのある靴音がした。
その音の鳴る方に顔を向ければ、バーを出て行くあの(ひと)の背中があった。
連れの男の人たちはまだ奥の席に座っている。

わたしに気づいた波多野さんが、そっと邑木さんの背中を指差した。


追、い、か、け、な、い、の?


波多野さんは口をぱくぱくと動かした。

追いかけるなんて、そんなの――。

「あの、ちょっと、電話を。電話をかけてきます」

立ち上がり、見え見えな嘘をついた。
男はもう酔っているのか、いってらっしゃーい、と陽気に手を振った。

急いで扉を開く。階段を上がった先には邑木さんの姿。
地上に出た邑木さんは、右手に向かって歩きだした。
視界から、ふつりと姿が消える。

わたしは急いで階段を駆け上がった。
黒、橙、黒、橙。目の前がチカチカする。
それは照明のせいか動揺のせいか、よくわからなかった。
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