とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
脈がどくどくと上がっていく。

乱れた脈を振り切るように、階段を上がりきってすぐに右手側に向かって叫んだ。

「む、邑木さんっ」

息の整っていない、必死な呼びかけ。
広い背中は足を止めて振り返った。

歩くのが早いのだろう。その距離は思ったよりも離れていた。
表情がよくわからない。
お互いに歩みだし、距離を縮めていく。

ひんやりとした夜風が頬を撫で、あの日のように白い月が路上にふたつの影を落とす。
秋の夜長は寂しいくらい静かで、重なった影は色濃く混じった。

「どうしたの、由紀ちゃん」

暗がりの中、邑木さんの唇だけが動いた。

「か、帰るんですか」

「うん。もう一杯くらい飲みたかったけど、呼び出されたから」

「呼び出しって……」

玲子さんからだろうか。
いや、呼び出しという言い方からすると

「仕事。スマホって便利なんだか不便なんだか、わからないな」

「こんな時間に呼び出されるんですか?」

「うん」

「まちのパンやさんって忙しいんですね」

「うん。まちのパンやさんは忙しいんですよ」
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