とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「ごめん。確かに、よくなかった」

ゆっくりと言葉を探るように言った顔は、曇っていた。
いつもなら邑木さんに合っているはずの野性的で攻撃的な香水が、いまはくっきりと浮いている。
アスファルトにのびる影が薄く、弱々しい。

わたしの機嫌をとるために、その場しのぎで謝っているようには見えなかった。


言い過ぎてしまったかもしれない。

わたしだって同じようなフレーズを口にしたことはあるくせに。
自分を棚に上げて、自分の傷だけに敏感になって。

この前と同じだ。
わたしは感情を爆発させるばかりで、この(ひと)は抑えるばかり。

「すいません……。わたしの言い方も、よくなかったです」

「いや、今のは俺が」

「猫が……」

「猫?」

「うちの猫が、夏に……亡くなって。
じゅうぶん、長生きではあったんですけど、わたし、いろいろ後悔しちゃって。
もっとなにか、出来ることはあったんじゃないのかなって。
だから、そういう言葉に少し敏感になってて。ごめんなさい……」

こんなのは言い訳でしかない。
そう思いながらもわたしは告げた。

それは言い過ぎた自分を許してもらいたかったからだろうか。
それとも(なまり)のように沈殿した思いを、ふいに吐き出したくなったからだろうか。

思考回路をろくに通らず、するすると流れ出てきた言葉の理由は自分でもよくわからなかった。
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