とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「由紀ちゃん」

「はい?」

笑うのをやめて邑木さんを見上げた。
大人なのか子どもなのかわからない、邑木さんの茶色い瞳が街灯を浴びて透明感を増す。

「やっぱり、キスしてもいいかな」

「は……」

返事をするより先に手を引かれた。
路地裏に迷いなく進んでいく背中。青暗い湿った空気。
ダクトや室外機がごうごうと低く唸る。

「邑木さん! わたし、いいなんて言ってませんっ」

「やっぱりしておきたい。ほら、声出すと人が来るよ」

人差し指の腹で唇をそっと突かれ、わたしは唇を小さくきゅっと結んだ。

この指で、わたしはくたくたにされた。

あられもない声をあげて身を(よじ)り、瞼を固く閉じて目尻を濡らし、互いの香りを皮膚のうえで温めた。



――溶けそう、由紀の中に。指も、舌も。



耳にこびりついたままの、この(ひと)が囁いた言葉たち。

溶けるのはわたしの方が先だ、と強く思った。
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