とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
まるでひとつの独立した生き物のように、わたしを犯す邑木さんの舌。
肩に置かれていた手は鎖骨をなぞり、首筋を撫で、頬を包む。

今日もこの(ひと)は目を開けてキスしているのだろうか。
外気でつめたくなっていた耳朶が、指先で溶かされていく。

そうなってから、ついさっきサーモンを食べたことを思い出した。

嫌だ。いくらその後にカクテルを飲んでいたって、臭いをきれいに流せるわけがない。
急いで舌を引っ込めようとすると、邑木さんはそれを許さなかった。

唇と唇が重なり合い、咥内へ滑り込んだ邑木さんの舌がわたしの舌を追いかける。
邑木さんの舌はやっぱり獣のようで、背筋がぞくっとした。
肩も心臓も、ぶるりと縮み上がる。

「寒い?」

嗤うように訊かれた。

「……別に」

わかっていて訊くあたり、この(ひと)は性格が悪い。
こういうときだけ言葉を遠回りさせる。

不意に、凍えるような風がびゅうっと吹き込んだ。
邑木さんは首から下げていたストールを外し、がちがちと震えるわたしをくるりと包んだ。

よく慣れた、迷いのない手つき。

わたしより十年ほど長く生きているこの(ひと)は、これまでどれだけの女の人にこうしてきたのだろう。
容姿からも、金銭的な余裕からも、相手に不自由はしてこなかっただろう。


どうして、わたしなのだろう。

どうしてこの(ひと)は、わたしを。
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