とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「由紀ちゃん、上着もなにも持たずに来たんだな。そんなに焦って、来てくれたんだ」

「熱がりなんです」

眉間に皺を寄せると再び唇が重なってきた。


この(ひと)は、わからない。


サーモンを食べた舌を舌で撫で回するのも、仏頂面した女にかわいい、かわいいとキスするのも、わたしには全然わからない。

邑木さんはきっと、最高に最低に、趣味が悪い。
趣味が悪いから玲子さんを好きにならない。

そのうちわたしにも、この(ひと)の趣味の悪さが伝染(うつ)るだろうか。
これだけ深いキスを交わしていたら、わたしの脳まで侵食されてしまう気がした。


リップ音を立て、透明にひかる糸を引きながら唇は離れていった。
こぼれそうな吐息を必死に飲み込んだ。

口の中が、甘く痺れる。

「ありがとう、由紀ちゃん。これで仕事に行ける。
何時になるかわからないけど、仕事が終わったらそっちに行っていいかな」

「……はい」

腑抜けた声で返事をした。
腰も膝も、皮膚の内側でとろとろと溶けて、かたちを失いかけていた。
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