とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
なんだか自分が見世物になったような気がした。

きっと彼は美しい婚約者のいる兄が、どんな女と不倫をしているのか好奇心でいっぱいなのだろう。

わたしに向けて放った「美人だ」には、そういう感情が滲み出ていた。
それがわからないほどわたしは世間知らずではないし、自惚れてもいない。

だけどたとえ見世物でも、わたしには断る権利なんてない。


ここは邑木さんのマンションで、ここへ住むことを望んだのはわたしで、邑木さんとわたしは恋人ごっこ中なのだから。
一番弱い立場は、間違いなくわたしなのだから。


「ぜんぜん、気にしてません。大丈夫です」

邑木さんは困ったような顔をして、ありがとうとお礼を言った。
いつもとどこか様子が違うように見えるのは、この(ひと)も少なからず動揺しているからだろうか。

公認だとしても、不倫なんて堂々と胸を張れるようなことではない。

「邑木さん……」

「うん?」

呼びかけに応じる顔は、いつもの顔に戻っていた。
そうなるとこちらももう訊けず、着替えてきたらどうですか、と適当に言った。
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