とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】



なにもいざこざが起きないことを平和というのなら、食卓は間違いなく平和だった。

詩優さんはよく食べ、よく話した。
とくにおでんの味噌だれを絶賛し、べったりと大根につけた。
もはや出汁の味は抹殺されている。

邑木さんはいつもより口数は少なく、だけどそのぶん詩優さんの話しに丁寧に相槌を打っていた。

その姿は、わたしがもともと邑木さんにたいして抱いていたイメージに近いものだった。
この(ひと)は弟の前ではやたらと静かになる。


「兄さんの誕生日、知ってますか」

邑木さんが電話をかけてくると言って席を外すと、それを待っていたかのようにすぐに訊かれた。
もちろん知らないので、わたしはいいえ、と首を横に振る。

「来週なんですよ。買い物、つき合ってくれませんか。こういうのって女の人の方がうまいですよね」

「え、あ、でも」

「はい、俺の連絡先。兄さんが戻ってくる前に、早く」

詩優さんは素早く自分の連絡先をスマートフォンに表示し、わたしに向けてきた。
もはや断る隙はない。
大人しくスマートフォンで連絡先を読み取った。

あの兄にして、この弟あり、だな。
きっとこの兄弟のDNAには「強引」と刻まれている。
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