とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
テーブルへ戻ると、邑木さんは黒い長財布からなにかを抜き出した。

「必要なものがあったら、これで」

まるで子どもにお小遣いを渡すかのようにクレジットカードを渡された。
その黒い輝きに思わず目を見開く。

まちのパンやさんって、そんなに羽振りのいいものだろうか。
いや、それよりも

「邑木さん、わたしが電話で言ったこと忘れてませんか」

「忘れてないよ。由紀ちゃんはここに住む。だからマットレスも代えた」

「そうじゃなくて。わたし、つき合うからマンションに置かせてください、って言いましたよね。
養ってください、なんて言ってません。生活費も家賃も、ぜんぶ払います」

「払うことないよ。君はなにも払わないでいい」

「こんなの受け取ったら売春になります。それに、カードを人に貸すのは罪にあたると思うんですけど」

君は真面目だな、と邑木さんは苦笑した。
わたしの言っていることは、どうやらこの(ひと)に伝わっていない。

「もともと誘ったのは俺だし、十も歳の離れた女の子からお金なんて受け取れないよ」

「じゅう……」

「由紀ちゃん、二十半ばとか、それくらいじゃない?」

「邑木さん、三十半ばくらいなんですか?」

「ああ、言ってなかったか。まあ、正確には三十七になるから、十以上だな。なに、もっと老けて見えた?」
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