とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「意外に小心者なんだな」

「馬鹿にしてますか」

「いや、かわいいって意味」

「かわいいって言えば、女がよろこぶと思ってませんか」

「よろこばせるのが目的なら、かわいいよりきれいって言うかな。たぶん女の人はかわいいより、きれいの方がうれしいだろうから。
ああ、由紀ちゃんがきれいって言ったのは本当だよ。よろこばせるためじゃなくて、本当の気持ち」

この(ひと)はこうやって気障(きざ)な台詞を口にすることで、お互いの気分を盛り上げようとしているのだろうか。
前戯の一部のような、そういう感覚だろうか。

ひーくんは、こういう気障なことは言わなかった。
好きとは言っても、わたしの躰に子犬のように(まと)わりついても、飾り立てた言葉は口にしなかった。

「かわいいは、俺にとっては別の意味だから」

「別?」

意味深に微笑まれる。

「ここで暮らして、なにか困ったら教えて。いつ連絡してきても構わないから」

「……あの、今日は、邑木さんは」

「うん?」



今日は、泊まっていくんですか。



くぐもった声で言い、わたしはすぐにアイスコーヒーに視線を落とした。
氷の溶けだしたアイスコーヒーは、透明と真っ黒とでぱっくり分離していた。
交わらない色と色。
汗で額に貼りついた前髪を払いたかったけれど、そんなことをして緊張している自分を悟られたくなかった。

ただ息を殺して、じっと耐える。
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