とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「え、知らないよ。そりゃ由紀は見てくれだけはいいから興味は持ってたかもしれないけど、そんな気にしてるようには」

「康くんのバーテンダーとしての人間観察力もたいしたことないね」

見てくれだけはいい、という言葉に対抗にするようにチクリと言った。
でも内心では、波多野さんの言葉に動揺していた。

あの(ひと)がわたしのことを気にしていたなんて、そんなことあるのだろうか。

「邑木さんは由紀ちゃんに話しかけたり、近くに座ったりはしないけど、気にしてるのはわかるものだよ。
なんていうのかな。視線っていうより、背中で由紀ちゃんを追ってるような、そういう感じかなあ」

「あ、そういえば寿司って、由紀が回らないやつが食べたいって、店で話してたよな。
あのとき邑木さんもいたっけ」

「お寿司なんて、だいたいみんな好きだよ。そんなの偶然だよ」

唇を尖らせて言うと、波多野さんはやさしく目を細めた。

「それならパクチーはどうかな。
パクチーのサラダを好きか嫌いか確認しないで頼むなんておかしい、って康くんに言ってたみたいだけど、由紀ちゃんがパクチー好きなこと、邑木さんは知ってたんじゃないかなあ」

「確かにあの(ひと)、そういう気遣いしそうだよな。
勝手に唐揚げにレモンかけたりしないタイプっていうか。
なんだよ。寿司もパクチーも、由紀が店で話してたことじゃん」

「康くんもやっと気づいたかあ」

そう言って波多野さんがふわふわ微笑むと、康くんは照れるように笑った。
< 78 / 187 >

この作品をシェア

pagetop