好きになっちゃ、だめでしたか?
 ホテルのロビーに来ると、春樹君がソファに座っていた。

 他にも数人の人が本を読んだり、恋人と一緒に過ごしたりしている。

 春樹君はわたしに気づくと手を振ってくる。

 心臓がどきどきと動く。

 いつもと違うシチュエーションのせいか、春樹君の周囲にいつもの倍以上のきらきらが見える気がする。

 ホテルのロビーからは中庭が見えて、色とりどりの花がその場を華やかにしていた。

「温泉はいった?」

「うん、露天風呂が一番よかったよ」

「確かに気持ちよかった」

 じゃあ散歩行こうか、と、春樹君はわたしの隣に立った。

 春樹君のいる右側が太陽の光を浴びているみたいに熱い。春樹君はどう思っているんだろう、と横顔を見て見えると目が合った。

「大野君と話せてないみたいだけど……大丈夫?」

「あ、うん」

 中庭には廊下から出られた。

 出ると、夜の少しだけ冷えた空気がわたしたちを包みこんでくる。

「留衣、最近元気なさそうだから」

「そんなこと、ないよ」

 春樹君は少しの間なにも言わずに星の浮かんでいる空を見ている。

「僕は留衣がどんな答えを出しても受けいれるから」

 春樹君は立ち止まった。

 中庭を照らしているライトが春樹君にも当たって、まるでそこだけがきらきらした別の世界のように見える。

「もう一度だけ言わせてもらえないかな」

「うん」

 春樹君がなにを言いたいのか分からなくて、つい目を逸らしてしまう。

「留衣、好きだよ。子どもの頃からずっと、留衣が好き」

 春樹君に好きと言われると、どうしようもなく切なくなる。身体全身が心臓になったみたいになる。 

 春樹君は言い終えるときゅっと口元に力をいれた。まるで天使のようだと思った。

 風が吹いた。花が風によってひらひらと揺れる。

「そろそろ、戻ろうか。自習もしないとだからね」

「う、うん」

 中に戻ると、春樹君は「あまり2人でいると大野君にあれだよね」と言い、先に戻っていった。

 わたしはその背中をずっと見ていた。
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