好きになっちゃ、だめでしたか?
 彼女の大きな目は揺れずに俺たちを見ている。薄い茶色の瞳に吸い込まれそうだ。

「まさにそうです。でも、神山君って言うよりは、その、るいさん自身のことを知りたいなって」

「わたしが、神山君のことをどう思っているか、ですか?」

 俺たちの聞きたいこと全てを、彼女はどうやら把握しているようだった。

「はい、まさに」

 もう1人の【るい】は、視線を落とす。

 顔をよく見てみると、本当になんで留衣と間違えたのか不思議なほどに違っている。

 留衣の顔はどちらかと言うと幼く、こっちの【るい】の顔は大人びている。可愛いと美人がちょうどいいくらいに混じり合っている。

 とは言うものの、幼い頃にしか会っていないなら、もしかしたら間違えるのかもしれない。

「心配するようなことはないですよ。わたしは彼のこと、なんとも思っていませんから」

 彼女は表情を一つも変えず、笑みを浮かべながら言った。

「その、昔、神山君と会ったっていうのは?」

「確かに何度か遊びました。でもそれだけです。本当に、それだけなんです」
 
 彼女の白い肌は外の光に照らされて輝いている。髪は色素が薄いのか、茶色がかっている。

「もし、もしですよ。神山君が、今でもあなたのことを好きだと言ったら?」

 俺は矢崎の腕を掴んだ。

「それ以上はもう止めとけって」

「好きだとしても、関係ないです」

 と言った彼女の顔は、内側にある自分の感情を押し殺しているように見えた。

 自分に必死に嘘を吐いて、目にしたくない現実から逃げて、だけどどうしようもできなくて。本当のことを言ったらきっと楽になるのに、そうしないのは誰のためなのか。

「その、あなたは、留衣さんのこと、好きなんですか?」

 彼女の目は俺に向いていた。同時に、彼女が留衣のことを知っているという事実を知った。

「いや、好きじゃないですよ。ただの幼馴染です」

「そう、なんですね。すみません、急に変なこと」

 彼女は顔の横に垂れている髪を耳にかける。

「いえ、慣れてるので。この質問」

 あははっと彼女は笑い、俺たちの前で深呼吸を一度すると「なにかほかに聞きたいことありますか?」と訊ねてきた。

「大丈夫です、いいよね?」

「あ、うん」

 彼女は俺たちの返事を聞くと「それじゃあ、友達待たせてるので」と先に教室から出て行った。

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