好きになっちゃ、だめでしたか?

いろんな感情。

 今日は春樹君とはじめての校外のデートだ。

 行き先はこの前相談していた水族館で、照明が少し暗くて大人っぽいところ。

 ガラスのトンネルでは、魚の泳いでいる姿を下から見ることができるらしい。

 でも、本当に今日デートをしてもいいのか……わたしには分からない。

 るいさんに気付いた日であろうときから春樹君は特に変わらず、そもそもるいさんと顔を合わせることもほとんどない。

 けれどやっぱりどうしても考えてしまう。

 わたしは春樹君とこのまま一緒にいていいのか、春樹君を解放するべきなんじゃないかって。

 もし付き合えなかったとしても、好きでもない人と隣にいるよりはいいのかもしれない。

 ベッドの上で身体を起こしたそのとき、部屋の扉がノックなしで遠慮なしに開いた。

「な、なに。いきなりはいってこないでって言ってるでしょ」

「なんだよー、べつにいいじゃん。妹の部屋くらい。つか、ワンピースなんか着て、もしかしてデートだった?」

 お兄ちゃんはわたしと同じ学校に通っていて、絶対に春樹君とわたしが一緒にいる姿を一度は目撃しているはずだった。

「そ、そうだけど?」

「あの、スーパーイケメン、というより、王子様みたいな顔のあの人と?」

 お兄ちゃんは探偵みたいに腕を組んで顎に手を当てている。
 
「そ、それがどうかした?」

「いや、まさかうちの妹にあんな彼氏ができるなんて、兄は感動しているんですよ」

 1人で、うんうん、と頭を振っている。

「彼の勘違い、なんだよ」

「え? なに? 声小さすぎ」

 言葉にすると、現実が壁となって押し寄せてくるのを感じた。
 
「とにかく、用事がないなら出ていって」

 目の縁が熱くなってきて、下を向いてお兄ちゃんの背中を押す。

「なんだよー」

「いいから出ていって」

 完全にお兄ちゃんを追い出したところで、扉を強く閉めた。

 涙が頬を伝う前に天井を見て、大丈夫、と言い聞かせる。
 なのに、一粒だけ目から溢れて頰を濡らした。





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