好きになっちゃ、だめでしたか?
 壁に寄りかかっていると、とんとん、と扉がノックされるのが分かった。

「どうせお兄ちゃんでしょ」

 濡れた頰を腕で拭く。なに? と言うと扉が開かれお兄ちゃんの姿が目にはいってきた。

「あのさ、勘違いってどういうこと?」

「え?」

「さっき言ってたじゃん」

「聞こえてたの?」

 すごく小さな声だったはずなのに。

「ごめん、俺地獄耳だから」

 と謝るお兄ちゃんは、申し訳なさそうに視線を下に向けている。

「地獄耳にもほどがあるよ」

「まあ、まあ。それで、なに? 勘違いって」

「それは」

「辛いことがあるなら、誰かに話したほうがすっきりするぞ?」

 お兄ちゃんは部屋にはいってきて扉を閉めた。いつもと違って、柔らかい表情をしている。

 とりあえず座れと言われ、2人で床に座る。

 だからか、言葉が自然と喉の奥から出てくる。全てを話した、間違って告白されたかもしれないことも、るいさんのことも。

 お兄ちゃんは絶対に笑うと思っていたのに、予想に反して「そうか」と重苦しい声を出した。

 どうせなら笑ってほしかった。そしたらわたしも、笑い飛ばせるのに。

「確かに、あの人は美人だもんな」

 お兄ちゃんは納得したように言った。

「るいさんって、有名なの?」

「まあ、才色兼備な新入生ってな。まあ確かに、その2人ならお似合いだわ。美男美女」

「そう、だよね」

 お兄ちゃんの言葉が、棘のように刺さってくる。

「って、ごめん」

「いいよ、謝らなくても」

「つうかさ、それ知ってて付き合ってるの、辛くない?」

「それは、そうだけど」

 好きになっちゃったんだもん、っていうわたしの言葉を、多分お兄ちゃんは受け取っている。

 まあ、だよな、と1人で頷き、けれど表情はまだ迷いの中にるようだった。

「まあ、最終的にはお前が決めることだし。俺の意見としては、そうだな、悩んだらいいよ、とことん」

 お兄ちゃんは私の頭をぽんぽんと叩いてから部屋を出ていく。

 時計を見ると、もう出かけないといけない時間になっていて、スマホと財布をカバンにいれて急いで部屋を出た。
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