好きになっちゃ、だめでしたか?
「その、春樹君って」

「ん?」

「わたしのどこが、好きだったの?」

 春樹君の笑顔があまりにも自然だから、つい言葉が出てしまった。

「どこって、そうだな、とにかく笑顔が可愛くて。幼いながらにも抱きしめたいって思ってた、って気持ち悪いよね」

「う、ううん。全然」

 とにかく笑顔が可愛くてって、そりゃそうだよね、あんなに美人なるいさんだったらきっと子どもの頃だって相当に可愛かったに違いない。

 わたしなんか足元にも及ばないくらい。

 そんな人に笑顔を向けられたら、きっと女のわたしでもどきっとしてしまう。

 こんなこと、聞かなきゃよかった。

「なんていうかさ、留衣の笑顔って人の心を軽くしてくれる気がする」

 なのに春樹君は話を続ける、わたしとるいさんを勘違いしたまま。

 わたしが本当のことを知らないと思っているから。

 きっと今春樹君の心の中にいるのは、るいさんに違いない。わたしを通してるいさんを見てるんだ。

「そ、そうかな? そんなこと言われると、恥ずかしいね」

「もちろん今の瑠衣の笑顔も、好きだよ」

 春樹君の顔は赤い。

「え? 今の、笑顔?」

「うん」

 春樹君は腕で口元をおさえてわたしのことを見ている。

 なのにわたしはきっと、信じられないっていう表情を彼に向けている。

「なんか、変なこと言った?」

「う、ううん。全然」

 心臓がうるさすぎて、電車の走行音よりもどきどきっていう音のほうが耳にはいってくる。

「ていうか、電車の中で恥ずかしいよね」

 春樹君はぱっとわたしから目を逸らした。耳まで真っ赤だった。

 都心に近づくほど車内の人が増え、わたしたちは無言で時間を過ごす。
 
 ふと春樹君を見ると、春樹君の目はどこか遠いところを見ているような感じだった。

 小さく動いた唇は、どこか哀しさを我慢しているようだ。

 やっぱり……。

 さっきの言葉は、わたしに向けられたものなんかじゃない、きっと。

 そう思うと、すっと心が冷静になる。
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